生命保険を契約者変更(名義変更)した場合の税金は?
「生命保険の契約者を変更することはできるのでしょうか?」というご質問を頂くことがあります。生命保険は長い期間契約する商品ですので、様々な事情で契約者や受取人を変更する必要が発生する場合もあるでしょう。
生命保険契約は、被保険者の変更はできませんが、契約者と受取人の変更は可能です。
生命保険の契約者(名義)を変更した場合、贈与税などの支払いが必要となるのでしょうか?生命保険の名義変更と課税関係について解説します。
目次
1. 契約者・被保険者・受取人とは?
生命保険を契約する場合、「契約者」「被保険者」「受取人」を指定する必要がありますが、それぞれ簡単に解説します。
契約者とは?
契約者とは、生命保険会社と保険契約を締結し、さまざまな権利や義務がある方です。保険契約上の各種権利(解約権など)や義務(保険料支払、通知義務)を有します。
被保険者とは?
被保険者とは、保障の対象者のことです。例えば、終身保険の被保険者が亡くなれば、死亡保険金が支払われます。
受取人とは?
受取人とは、保険事故発生時に保険金を保険会社から受け取れる方です。契約者が指定します。
2. 契約者変更時の必要書類は?
契約者変更(名義変更)の手続きに必要な書類は下記の通りです。なお、契約者を変更する際には、被保険者の同意が必要となります。
≪契約者変更時に必要となる書類≫
・名義変更請求書
・新旧契約者の公的証明書(免許証・健康保険証など)のコピー
※保険会社によって必要書類は異なる場合があります。
3.契約者や受取人を変更すると課税される税金が変わる?
契約者や受取人を変更すると、保険金に課税される税金が変わる場合があります。保険金に課税される税金は、契約形態(契約者・被保険者・受取人の関係)によって下表の通りです。
契約者 | 被保険者 | 受取人 | 税金 |
---|---|---|---|
A(例:夫) | A(例:夫) | B(例:妻) | 相続税 |
A(例:夫) | B(例:妻) | C(例:子) | 贈与税 |
A(例:夫) | B(例:妻) | A(例:夫) | 所得税・住民税 |
4. 契約者を変更した場合、贈与税が課税される?
契約者を変更した場合、旧契約者から新契約者への贈与となり、新契約者に贈与税が課税されるのでしょうか?
実は、名義変更時点では贈与税は課税されません。下記のように契約者変更した事例を使って課税関係を解説します。
変更前 | 契約者:妻 | 被保険者:夫 | 受取人:妻 |
---|---|---|---|
⇓契約者を妻から夫に変更 | |||
変更後 | 契約者:夫 | 被保険者:夫 | 受取人:妻 |
① 契約者変更時
契約者変更時点での課税は行われません。課税が行われるのは、保険事故(死亡・解約・満期)発生時点です。
② 解約時
解約時には下記の通り、名義変更前後で保険料負担者が異なるため、課税される税金が異なります。
名義変更前に妻が支払った保険料部分に対する解約返戻金
⇒夫が受け取った解約返戻金は贈与税の課税対象
名義変更後に夫が支払った保険料部分に対する解約返戻金
⇒夫が受け取った解約返戻金は一時所得として、所得税・住民税の課税対象
5.契約者死亡による名義変更の場合
契約者と被保険者が異なる生命保険契約で、契約者死亡に伴い契約者を変更する場合、解約返戻金の額が「生命保険契約に関する権利の評価額」として、相続税の課税対象となります。
なお、解約返戻金のほかに受け取れる前納保険料の金額、配当金等がある場合は、これらの金額を加算し、解約返戻金の額につき源泉徴収されるべき所得税の額に相当する金額がある場合には、当該金額を控除した金額が「生命保険契約に関する権利の評価額」となります。
下記のように父親の死亡によって契約者変更をした場合の契約は、名義変更後は、息子が全期間の保険料を支払っていたものとして課税される税金が決まります。
変更前 | 契約者:父 | 被保険者:息子 | 受取人:父 |
---|---|---|---|
⇓契約者を父から息子へ、受取人を父から息子の妻に変更 | |||
変更後 | 契約者:息子 | 被保険者:息子 | 受取人:息子の妻 |
① 名義変更時点
父親の死亡によって名義変更した時点では、「生命保険契約に関する権利の評価額」として解約返戻金相当額が、相続税の課税対象となります。
② 解約した場合
名義変更後に契約を解約し、息子が解約返戻金を受け取った場合
⇒息子が受け取った解約返戻金は一時所得として、所得税・住民税の課税対象
③ 息子が死亡した場合
息子が亡くなり、息子の妻が死亡保険金を受け取った場合
⇒息子の妻が受け取った死亡保険金は相続税の課税対象
6. 税務署は名義変更を支払調書で把握できる?
名義変更すると、上記のような課税が発生しますが、名義変更しても税務署に知られることはないから贈与税や相続税を申告・納税する必要はないだろうと考える方もいるかもしれません。
生命保険会社などは、一定額を超える保険金支払の際に、その保険金額等が記載された支払調書を税務署に提出します。しかし、今までの支払調書では、下記のような問題点があり、相続税や贈与税の課税漏れが発生していました。
- 契約者(保険料負担者)と被保険者が同一人でないケースで契約者が死亡し名義が変更された場合、保険金が支払われたわけではないため支払調書が提出されず、税務署がこれを把握できない。
- 名義変更後に保険金や満期保険金が支払われた場合、支払調書は支払時点での契約内容で作成されるため、契約途中で名義変更があったことを税務署が把握できない。
しかし、平成30年1月1日以降の支払調書は下記のように改正されました。
① 死亡による契約者変更の場合の調書の創設
死亡による契約者変更があった場合には、死亡による契約者変更情報及び解約返戻金相当額などを記載した調書(保険契約者等の異動に関する調書)を、税務署長に提出しなければならないこととする。
② 保険金等の支払調書の記載事項の追加
生命保険金等の支払調書については、名義変更情報、保険金等の支払時の契約者の払込保険料や名義変更の回数等を記載することとする。
これまでの支払調書では、税務署は名義変更を把握できず、本来必要なはずの贈与税や相続税の確定申告がされていない事例が多くあったと思われます。しかし、今後は、名義変更前後の保険料負担者が支払調書で明らかになり、税務署も簡単に申告漏れを把握することができます。
まとめ
税金の申告漏れを税務署に指摘された場合などには、無申告加算税などの重いペナルティーがあり、ムダに高い税金を支払わなければならない原因となります。
生命保険の名義変更をする際には、どのような課税関係になるのかを確認し、ムダなトラブルを避けるためにも正確に確定申告を行うようご注意ください。
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