「老後2000万円問題」をきっかけに老後資金準備に不安を感じている方が増えています。
特にフリーランスや個人事業主などの第1号被保険者は、老後に受け取れる年金が満額でも老齢基礎年金(国民年金)の月額約6.5万円なので、どのように老後資金の不足額を準備すべきか悩んでいる方も多いはず。
第1号被保険者の公的年金の上乗せ制度の1つとしては国民年金基金がありますが、加入するべきなのか迷っている方もいるしょう。
そこで今回は、国民年金基金の3つのメリットと4つのデメリットについてまとめました。
国民年金基金への加入を検討している方は参考にしてください。
目次
国民年金基金とは?
まずは、簡単に国民年金基金制度について解説します。
会社員等の給与所得者の公的年金には、厚生年金や厚生年金基金があり、3階建ての制度になっています。
一方、自営業者などの第1号被保険者の場合、国民年金のみだと1階建ての制度。
そこで、会社員等の給与所得者との年金額差を解消するために国民年金基金制度が平成3年4月に創設され、国民年金と国民年金基金制度を合わせて2階建ての制度になりました。
国民年金基金は、国民年金法の規定に基づく公的な年金です。
国民年金基金制度は、国民年金(老齢基礎年金)とセットで、自営業者など第1号被保険者の老後の所得保障的な役割を担う制度。
なお、国民年金基金の加入条件や加入資格については、下記記事をご参照ください。
メリット①:掛金の全額が所得控除(社会保険料控除)の対象で節税になる
国民年金基金の大きなメリットの1つは、掛金が全額所得控除になり、所得税・住民税の負担を軽減できる点です。
課税所得を減らして節税しながら老後の資金を積み立てることが可能。
国民年金基金の掛金を支払った場合の節税額シミュレーションについては、下記記事をご参照ください。
参考:国民年金基金の掛金をシミュレーション|最低いくらから?いつまで払う?
また、国民年金基金の掛金は、社会保険料控除の対象なので、生計を一にする配偶者やその他の親族分の掛金も所得控除の対象。
つまり、ドクターが配偶者等のご家族分の国民年金基金掛金を支払った場合、ドクターの所得から家族分の掛金を控除することが可能ですので、更に大きな節税が可能になります。
年金の受け取り時も税制優遇措置あり(公的年金等控除)
年金を受け取る際も公的年金等の雑所得扱いになり、公的年金等控除の対象となるなどの税制優遇措置があります。
公的年金等控除の詳細については、下記記事をご参照ください。
メリット②:終身年金を選択できる
国民年金基金には終身年金2種類、確定年金5種類、合計7種類の型の年金があります。
終身年金とは?
終身年金とは、年金受取人が生きている間、一生涯受け取ることができるタイプの年金。
年金受取人が亡くなると、年金の支払いはストップします。
なお、年金には「確定年金」「有期年金」「終身年金」の3種類があります。詳細については、下記記事をご参照ください。
参考:「確定年金」「終身年金」「有期年金」の違いとは?
確定年金とは?
確定年金とは、年金受取開始後、年金受取人の生死に関わらず、契約時に定めた一定期間(10年・15年など)の年金が受け取れるタイプ。
年金受取期間中に年金受取人が死亡した場合、残期間に対応する年金は遺族が受け取れます。
なお、遺族が受け取れる残期間分の年金は一時金で受け取ることも可能。
1口目は終身年金のA型またはB型から選ぶ必要がありますが、2口目以降は終身年金A型・B型および確定年金Ⅰ型、Ⅱ型、Ⅲ型、Ⅳ型、Ⅴ型の7種類の中から加入者が選択可能。
1口目と2口目以降の全ての型を終身年金にすることもできます。
終身年金である公的年金(老齢基礎年金)を満額で月額約6.5万円しか受け取れない第1号被保険者にとって、終身年金の受取額を増やせる点は大きなメリットの1つ。
人生100年時代には、年金を一生涯受け取れる終身年金の額が大きい方が安心です。
なお、国民年金基金の年金額のシミュレーションについては、下記記事で詳細に解説していますので、ご参照ください。
参照:国民年金基金の年金額をシミュレーション|いつまで、いくら受け取れる?
メリット③:確定給付の制度(予定利率1.5%)|年金額、掛金ともに変動せず
国民年金基金は、個人型確定拠出年金iDeCo(イデコ)とは違い、確定給付の制度です。
途中で口数を変更しなければ、掛金も一定で、年金額も確定で変動せず。
よって、加入時に将来受け取れる年金額をシミュレーションでき、将来設計ができる点もメリットの1つです。
尚、賦課方式の国民年金とは違い、国民年金基金は積立方式の年金です。
デメリット①:途中脱退・途中解約は不可
国民年金基金への加入は任意であり、国民年金のように強制加入ではありません。
しかし、一度、国民年金基金に加入した場合には、任意に脱退することはできません。
国民年金基金の途中解約や途中脱退については、下記記事をご参照ください。
参照:国民年金基金をやめたい場合、途中解約や途中脱退は可能?
デメリット②:掛金の途中引き出しはできない
国民年金基金は任意に脱退することはできませんが、下記の脱退要件に該当した場合には、加入員の資格を喪失します。
- 60歳になったとき
- 65歳になったとき(国民年金に任意加入している場合)
- 国民年金の第1号被保険者でなくなったとき(会社員になったときや海外に転居したときなど)
- 国民年金の任意加入被保険者でなくなったとき
- 該当する事業または業務に従事しなくなったとき(職能型基金に加入の場合)
- 国民年金の保険料を免除されたとき(一部免除、学生納付特例、納付猶予を含む)
- 農業者年金の被保険者になったとき
- 加入員本人が死亡したとき
仮に強制的に加入員資格を失っても、それまでに納めた掛金を引き出すことはできません。
また、国民年金基金の加入中にどうしてもお金が必要となった場合でも、納めた掛金を引き出すことはできず、将来、掛金の納付状況に応じて年金を受け取ることになります。
上記の通り、一旦収めた掛金は引き出すことができないので、ムリのない範囲での掛金設定が必要となります。
デメリット③:インフレリスクあり|物価スライドなし
国民年金基金は確定年金で、加入時に受け取り時の年金額をシミュレーションすることができます。
受け取れる年金額が変動しない点は大きなメリットの1つですが、インフレに弱いのが大きなデメリットの1つ。
公的年金のように年金額が物価や給与等にスライドしないので、インフレにより物価が上昇した場合には、受け取る年金額が実質的に目減りする点には注意が必要。
例えば、インフレにより物価が2倍になったにもかかわらず、年金額が上がらなければ、年金額は実質的に2分の1に目減りすることになります。
インフレとは?
インフレ(インフレーション)とは、モノやサービスの値段(物価)が上がり、通貨(お金)の価値が下がることをいいます。
お金(通貨)の価値は一定ではなく、その時々の物価の状況により変動します。
デメリット④:破たんリスクあり
実は、国民年金基金には積立不足問題が存在します。
積立金の運用状況は悪く、加入者に約束する予定利率は、以下の通り段階的に引き下げられてきました。
しかし、予定利率が下げられても加入時の予定利率は保証。
例えば、予定利率が5.5%の時代に基金に加入した加入者は、予定利率が1.5%に下がった現在も5.5%の予定利率が保証されています。
よって、実際の運用利回りが、高い予定利率を下回ってしまうと逆ザヤとなり、積立不足が発生。
積立不足の状況が悪化すれば、その解消のため、約束している将来の給付額が引き下げられる可能性があります。
また、国民年金基金は積立方式で、加入者が積み立てた掛金を年金で受け取ることになっていますが、実はその積立金は加入者ごとに明確に区分されていません。
財政状況によっては、予定利率が高い加入者の積立不足を他の加入者の掛金で穴埋めするという事態が発生する可能性もあります。
ただし、現在の国民年金基金の積立不足が即制度の破たんにつながるわけではありませんし、今後の運用環境がどう変わっていくかは誰にも分かりません。
積立不足が早期に解消される可能性もゼロではありません。
国民年金基金の破たんリスクとインフレリスクについては、下記記事で詳細に解説していますので、ご参照ください。
参照:国民年金基金は危ない?|破たんリスクやインフレリスクについて解説
まとめ
国民年金基金のメリット・デメリットをまとめると下記の通り。
国民年金基金のメリット
- 掛金の全額が所得控除(社会保険料控除)の対象
- 確定年金で、将来の年金額が加入時に分かる
- 終身年金が選べる
国民年金基金のデメリット
- 一度加入すると、途中解約や途中脱退はできない
- 納めた掛金は途中で引き出すことはできない
- インフレに弱く、物価の上昇時には年金額が実質的に目減りする
- 運用環境が悪く、破たんリスクがある
掛金全額が所得控除になり、節税しながら終身年金が準備できる点は大きなメリットであることは間違いありません。
一方で、一度加入すると途中解約や脱退ができず、納めた掛金の途中引き出しができないなどのデメリットも存在します。
どのような制度にもメリットがあれば、デメリットもあります。
国民年金基金のメリット・デメリットともに理解したうえで、加入を検討することが重要となるでしょう。
国民年金基金とイデコの掛金拠出枠(月額68,000円)は同枠なので、国民年金基金はメリットよりもデメリットの方が大きいと感じる場合には、イデコへの加入も1つの選択肢になります。